目次
ナッジ(Nudge)とは

“Nudge”は英語で 「肘でそっとつつく」 という意味の言葉です。
強制したり罰則を与えたりせず、環境の工夫だけで人の行動を自然に良い方向へ導く方法 を指します。
医療・教育・行政の分野でも広く活用されている行動科学の考え方です。
ナッジ効果(Nudge)とは?
英語の「Nudge=肘でそっとつつく」が語源。
- 強制しない
- 罰しない
- 選択肢を狭めない
- でも環境を工夫して、望ましい行動へ自然に誘導する
という行動科学の手法のことです。
例
- スーパーで、果物を手前に置くと健康的な選択が増える
- 階段をピアノ鍵盤のデザインにすると、階段の利用者が増える
病院での例
看護師さんの病衣の色を
- 日勤:ピンク
- 夜勤:水色
- に分けることで、
- 誰に仕事を頼むべきかが一目で分かる
- ピンクの看護師さんは“自分は帰る側”と意識しやすい
- 不必要な残業依頼を防げる
- お互いに気まずくならず、自然と正しい行動につながる
という 視覚ナッジ(Visual Nudge) が働いています。
“強制しないのに、行動が正しく整う”という、ナッジの典型的な成功例です。
ナッジの種類



代表的なナッジは次のとおりです。
看護師さんの病衣の色を
- 視覚ナッジ:色・配置・マークなどで誘導
- デフォルト・ナッジ:初期設定を望ましい状態にしておく
- 社会規範ナッジ:多数派を示して行動を促す
- フレーミング・ナッジ:伝え方を変えて行動を促す
- フィードバック・ナッジ:可視化による行動改善
- タイミング・ナッジ:最適なタイミングで後押し
- 環境設計ナッジ:動線や空間配置で無意識行動を誘導
1.視覚ナッジ(Visual Nudge)
色・形・配置など、目で見て行動を誘導する方法。
視覚ナッジ
- 看護師のユニフォーム色分け
- 足跡のマークで移動を誘導
- 水道の近くに手洗いポスターを貼る
2.デフォルト・ナッジ(Default Nudge)
最初の設定(デフォルト)を望ましい選択にしておく 方法。
デフォルト・ナッジ
- 予約の“デフォルトは希望時間帯を自動選択”
- 健診オプションを最初からセットにしておく(外したい人だけ外す方式)
- 社会保険の加入をデフォルトにする(加入率上昇)
3.社会規範ナッジ(Social Norm Nudge)
「みんなやっている」を示すと行動が変わる というナッジ。
社会規範ナッジ
- 「90%の患者さんが、毎日歯磨きを2回しています」
- 「この病院では、ほとんどの医師が手指衛生を徹底しています」
4.フィードバック・ナッジ(Feedback Nudge)
自分の行動がわかると改善が進む というタイプ。
フィードバック・ナッジ
- 歩数計が毎日のステップ数を可視化
- 血圧をアプリで記録すると継続しやすい
- 退院指導の達成状況を色で示す(赤→黄→緑)
5.フレーミング・ナッジ(Framing Nudge)
伝え方の枠(フレーム)を変えるだけで行動が変わる。
フレーミング・ナッジジ
- 「喫煙で寿命が縮む」→ LOSS(損失)フレーム
- 「禁煙すると○年寿命が延びる」→ GAIN(利益)フレーム
- 同じ内容でも伝え方で行動が変わる
6.選択肢アーキテクチャ(Choice Architecture)
選択肢の並べ方を工夫して、望ましい行動を起こしやすくする。
選択肢アーキテクチャ
- 病院のメニュー順序を“よく選ばれる検査 → 専門検査”と並べる
- 申し込みフォームで「重要項目」を上に置く
- 健診の選択肢を“3つ”に絞ると選びやすい
7.タイミング・ナッジ(Timing Nudge)
行動してほしいタイミングで、そっと後押しする。
タイミング・ナッジ
- 退院前日に「薬の説明動画」を送る
- 朝の出勤前に“手洗いリマインド”を掲示
- インフルエンザ予防接種のタイミングで案内を送る
タイミングは意外と大きな効果があります。
8.環境設計ナッジ(Environmental Nudge)
空間・動線の設計で行動を誘導する。
環境設計ナッジ
- 手洗い場の前にアルコール消毒を置く
- ゴミ箱を人が通る動線に置く
- 待合室の配置で“会話が生まれやすい席”をつくる
無意識レベルで行動が変わります。
医療・病院で特に使われるのは?
| 分類 | 病院での実用度 |
|---|---|
| 視覚ナッジ | ⭐⭐⭐⭐⭐ |
| デフォルトナッジ | ⭐⭐⭐⭐ |
| タイミングナッジ | ⭐⭐⭐⭐ |
| 社会規範ナッジ | ⭐⭐⭐ |
| 環境設計ナッジ | ⭐⭐⭐⭐⭐ |
スラッジ(Sludge)について
ナッジの反対概念で、「行動を妨げる仕組み」 を指します。
手続きがわざと複雑だったり、解約がしづらかったりするものがスラッジにあたります。
スラッジ(Sludge)とは?
ナッジの逆で、“邪魔をして行動しづらくする仕組み” のこと。
スラッジ=泥、ぬかるみ
→ 行動を重くして足を取られるイメージ
よくあるスラッジ
- 退会の手続きが異常にわかりにくい
- 書類の記入欄が多すぎて疲れる
- 必要な情報が見つからず何ページも移動しないといけない
- 申し込みは一瞬なのに、解約だけ電話でしかできない
わざと不便にして、やる気を奪う仕組みです。
ナッジとスラッジの違い(超シンプル)
| 概念 | 意味 | 行動への影響 |
|---|---|---|
| ナッジ(Nudge) | 肘でそっと押す → 行動を“促す” | 良い方向へ進みやすくなる |
| スラッジ(Sludge) | 泥で邪魔する → 行動を“遅らせる/しづらくする” | 面倒で行動したくなくなる |

